封印されたテレビ: コミュニケーション有能への進化(20)

[TOC]
2005 Mar.

コミュニケーション有能への進化（２０）

封印されたテレビ

  家庭に白黒テレビが出現した当時は、テレビそのものが面白かったのであり、テレビ局が作って送信する「番組」が面白かったり、面白くなかったりしたのではない。

  テレビそのものの面白さとは、人や場所や物事の「接近」であり「肉迫」である。それは、彼や彼女やあなたが私へと肉迫してくることであり、ときには私が彼や彼女やあなたへと肉迫することである。
  それは、とても新しい、濃密なコミュニケーションの可能性であり、そのための道具の大衆化（の予感）だった。

  その可能性と大衆的道具性は、しかし、すぐさま封印された。大きくて数少ない「テレビ局」と、そこが作って送り出す「番組」によって。

  いわば、テレビという新しくて面白い生活の図柄（の予感）は、ただちに、局＆番組というモノトーンな色によって、完全に塗りつぶされ、塗り消されてしまった。今の私は、テレビ登場の初期のころに感じた“面白さの思い出”に基づいて話を進めている。

  しかし、テレビというコミュニケーション手段の、局と番組による独占～塗りつぶしに対する不平や不満は、インターネットの高性能化と大衆化によって過去のものになる。ちょっとラフなアナロジーとして言えば、マイカーの普及によって鉄道が斜陽になったように、インターネットの普及によって放送局は斜陽化するだろう。ご存じのとおり、放送局の腐壊（コラプト）はすでに始まっている。

  たとえばわが家はたまたま、捨て犬捨て猫の保護と里親募集、という非営利事業を過去１５年間営んでいるが、それは最近約１０年間の“インターネットと呼ばれる情報通信マイカーの普及”ということがなければ、到底成り立たなかっただろう。猫たち犬たちが幸せな生活を送れるのも、ひとえに、インターネット様々のお蔭である※。
  痴呆局と痴呆番組が独占するテレビは、そんな私たちに、いや猫たち犬たちのために、その電波を数秒たりとも使わせてはくれなかっただろう。そんな今のテレビのどこが“公共性”だ、ばか！。

〔※：ただし、インターネットの安易な利用の普及により、犬や猫の安易な繁殖も増えている。インターネットがあってもなくっても、子猫や子犬をむやみに増やせば、人間の飼養能力を超えてしまうこと…かわいそうなめに遭う子猫子犬が増えること…は当然です。犬猫問題の当面の最大の課題は、不妊化（避妊と去勢）であること、すなわち安易に増やさないことであることを、みなさま、お忘れなく！。〕

  真の公共性というものは、その核に、あなたや、わたしや、彼や、彼女の、それぞれの「私」というものの濃厚な関わりがなければならない。私が参加していない/ 参加できない公共性は、真の公共性ではない。そういう意味で、今日のマスメディアが自称する公共性は、真の公共性ではない。それは、コミュニケーションのメディアをインターセプトし塗りつぶしてしまったローカル権力による、欺瞞的なせりふにすぎない。

  とはいえ、現時点ですでに、テレビ受像機やラジオ受信機のない家庭が一般化した状態を想像するのは難しくない。
   以前、ダイアルアップ接続のころは、電話代恐怖により、重要な資料をなんでもかんでも自分のコンピュータのハードディスクの上にためこんだものだが、光ファイバによるブロードバンド接続になった今では、資料が世界各地に点在しているままでいっこうに平気だ。というわけで、各家庭からDVD 録画再生機が消える状態を想像するのも、難しくない。

  しかし、現状のインターネットというコミュニケーションメディアの問題点は、プッシュとプルの有効なダイナミックなバランスの実現（※）だ。このバランスの実現と普及がインターネットの構造そのものの上で技術的に可能になるまでの間は、「インターネットのマスメディア的な利用」を提供するビジネスの肥大化が避けられない。それらのビジネスがいわば、欠けているプッシュを擬似的に実現する。
  ホリエモンはおそらく、テナントサービスの増強策として、本物のマスメディアという、本物のプッシュ機関車を欲しがっているのだろう。プッシュ技術として見た場合の、インターネットのかったるさ、非力さ、…しかし、そんなタイプのインターネット認識は、インターネットの本当の本質に立ったインターネット認識ではない。古いタイプの人間の、インターネット認識である（末尾コラム「流砂の楼閣」参照）。
   私は、インターネットの、そのあるべき本質に照らして、楽天もライブドアもグーグルも早く消え去ってほしい、インターネットは真髄は強力な分散化だぞ！、と大声で言いたい。

  〔※：抽象的に言うとそれは、それぞれの「私」が常時、総称的なサーバと総称的なクライアントを自機の上で動かしている、という状態だ。それは、非常に多様な構成が可能な、インターネット総合サーバとインターネット総合クライアント、です。今みたいに、「いろんな種類のクライアント/ サーバアプリケーションがある」、という状態をどうしても脱する必要がある。〕

  今回の本稿は、なんでインターネットビジネスが、今や恐竜の化石と化しつつある伝統マスメディア（＝＝“放送局”）の巨額買収に色気を示すのか？、なんだかつまんねー話だな、という感想から発想したものであります。

　*070518付記: 今の、芯の中心まで完全に醜悪に腐愚化しているマスメディアは、殺人犯が語るあほくさい動機談義などを滔々と紹介する。こらー、自分の話をみんなにきいてもらいたいと思っている立派な志の人びとは、世の中につねにウンマンといるだろーが！。公共の電波を殺人者の自己主張の道具として供するんじゃねー！。

流砂の楼閣

知に関するあらゆる議論と言説は、コミュニケーションという永遠の流砂の上にそのドメインを移動し、そのことによって全面的に、コミュニケーションという動的相対化を新たな基本的体質としなければならない。知と情報の場は、従来の、複数の一極性（マルチローカル）から、一つの多極性（シングルグローバル）へと全面転換しなければならない。コミュニケーション場における相対化を最初から最後まで忘却している、従来の知のパラダイムはすべて、ローカル権力と、その担い手や犬であるオトコ族の、権力欲、支配欲のあらわれにすぎない。従来、砂上の楼閣というと悪い言葉の一種であったが、この相対場の視座に立てば、流動してやまない砂上の楼閣こそが、唯一のアクチュアルな知識と情報の生成流通の場である。この動く場で、ひとは、多くの他者とともに、知と情報の生成のダンスに参加する「個」（あらゆる意味で脱共同体化脱権威化した個）でなければならない。すなわちマスメディアが（あるいはインターネットのマスメディア的利用ビジネス）がそのツールとして利用するインターネットや、古典的権威的アカデミズムがそのメディアの一種として利用するインターネットではなく、流砂を構成し、流砂に参加し、流砂の一粒一粒である裸の「個」たちのコミュニケーションダンスの場としてのインターネットが、メインの利用形態として場を占有する必要がある。それは、従来の複数の一極性を構成していた硬いオトコ的個ではなく、マシュマロのごとく、つきたてのお餅のごとく、外部性他者性の多様な侵入を許す、「やわらかい個」による、対話的動的相対場である。

Linuxの生成史が、すでに、その形の基本を示している。