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[TOC] 2005 November コミュニケーション有能への進化（２８）個我の隠蔽性を引き剥がすことから始まるそもそも、我（が）というものの視界に宇宙はひらけ、存在しているのであって、しかもそれは、生まれたての鮭の稚魚にも我はあり、したがってそこには立派な宇宙がある。我において我はそれひとつしかなく、ほかの我＝ほかの宇宙と物理的に触れ合うことも交錯することもない。…という意味であらゆる我は絶対孤独である。 自分の体が生産している卵子や精子も…おびただしい数ながら…自分とは別の我たちである（しかもその圧倒的多くが発生成長の機会を得ることなく単純に捨てられる！）。それらの卵子や精子は決して私（主体）の分身などではなくて、私（我）にとっては、あなたや彼・彼女等と同格の客体でしかない。「私」の皮膚のかけらの細胞から作られたクローンも、同じく、「私」の延長ではありえない…これまた単なる客体だ。 わたしは、あなた/彼/彼女の、我を経験できない。それでも、それらの客体は、客体(objects)とはいえ、それぞれがそのそれぞれにおいては独自のアンタッチャブルの我(subject(s))なのだから、宇宙の『我構造』というやつは、ほんまにおとろしい。どっから、どうやって、この我やあの我が存在するに至るのか。「我」というものこそ、宇宙の唯一最大の神秘と言っても過言ではない。科学や宗教は、この神秘、存在の唯一の真実に、一歩も踏み込めない。 では、科学や宗教が扱っているもの（非在）の正体は、いったい何なのか？。この際、どうでもいいことだが…。 卵（らん）の時代の鮭くんには、我（が）とそこに開ける宇宙はないのであらうか？。それは、想像でいえば、そこには快適な、夢を見ない睡眠のようなものがあるだけで、宇宙はまだ開けていない状態ではあるまいか。真相は分からないので、とりあえず、そういうことにしておこう。われわれが、イクラや筋子を心おきなく食べられるためにも…。 鮭の稚魚や子猫の宇宙の内容は、われわれ人間の我の宇宙に比べて桁違いに単純であり、したがってたとえば、その幼くしての突然の死はごく軽いと言い切れるものであろうか？。それは、そうは言い切れないと思うのが正解であろう。 鮭は鮭なりに、そして猫は猫なりに、われわれのとは違いこそすれ、十分に内容豊かで複雑な宇宙が、その我の視界に開けていると想定して不合理ではない。人間の基準だけがあらゆる我の内容の基準ではありえないし、子猫は人間には想像すらできない我の宇宙の複雑なコンテンツを持っていると考えても無理ではない。そもそも「万物の霊長」という呼び名は、われわれの勝手な思い上がりにすぎない。 食物連鎖の頂点ということを言うならば、人間を食らい殺すウィルスや細菌こそが万物の霊長と言わざるべけんや、だ。文化文明ということを言うならば、われわれ人間のいわゆる文化文明なるものは、種の性質としての欠陥または進化途上の状態を表すものであるかもしれない。歴史というものがある、というヒトという種の特異性は、ヒトのみがまだ、進化が最終落着していない未完成種であることの表れであるかもしれない。しかも機械類の発達それ自体はなんら、われわれ人間という種のコミュニケーション不能の解消を保証してくれるものではない。 以上は、鮭も猫も人間も、我とその宇宙の開けにおいては同格互角であることを言わんがための準備的な記述である。 植物の我ということまで考えると、この地球上だけでも、おびただしい数の我があることになる。そのことがそもそも、おとろしいことだが、どれだけ大量に我があろうとも、あらゆる「私」においては我は私の我ただ一つである、他の我たちと物理的な交流や接触なく絶対隔絶しているという絶対孤独もまた、おとろしい事態だ。 うーん、宇宙のこの構造は、ほんとうにおとろしい。 こんな、おとろしい神秘の宇宙こそが、ホンモノの宇宙じゃないか。 さて、輪廻転生という説は、神様の宇宙における我のストック数が有限であって、したがって使い回し(reuse)されている、という説である。あるいはそれは、我のない宇宙はありえないのだから、今この我が宿っている生体の死後にも、再び必ず何らかの形で我はあるであろう、と思い込む説(reset/reboot説) である。いずれにしてもわれわれは、この点に関して真実を知らないのであり、また知り得ないであるから、考えるのをやめよう。 コミュニケーション問題の基盤は、我とその上に開ける宇宙が、それぞれの我においてそれひとつしかなく、またほかの我の上のほかの宇宙と物理的に触れ合わない、交錯しない、絶対孤立であることにある。ひとつの我宇宙において、したがって他人（同じ種に属する自分以外の生体）なんてものも、そこらに転がっている石ころと同然の、視界宇宙内に転がっている単なる「存在物」でしかない。この点がまた、おとろしい。 しかしコミュニケーションというものは、この絶対隔絶を前提として考えないかぎりまったく偽りのコミュニケーション考察になる。たとえば何らかの共同体の伝統や慣習を前提としたコミュニケーション理論は、真のコミュニケーション理論にはなりえない。共同体間の絶対隔絶がそこでは放置忘却されているが、その忘却放置とパラレルに、個我とそこにひらける唯一宇宙という構造も、共同体生活の下では完全に覆い隠されている。 個我は共同体生活のあれこれで毎日休みなく忙殺されているために、個我を自覚する機会がない。だから、我というものは何億年前（？）の生物の発生からすでに存在しているにもかかわらず、ひたすら共同体生活で忙しかった人間においては、その忘却隠蔽が今日まで持続してきた。我はいわば、共同体性に完全に“汚染”され、無力化されていて、自分自身と対面する機会もなかなかない。 そこで今日まで、あらゆる学問、思想、そして日常常識とそれを支える世界認識が前提する宇宙は、抽象的対象的宇宙である。宇宙は我と呼ばれるキャンバスの上にとりあえず主観的主体的に描かれるにもかかわらず、従来の支配的な宇宙像である抽象的対象的宇宙は（この最も重要な）我を、捨象した宇宙である。それは、我というものがあってもなくっても存在する宇宙という、ある意味、非現実的な宇宙だ。ここに、『疎外』の根っこがある。 すなわち人間個我は、宇宙（今日のデフォルトの宇宙観念）と、学問から日常常識〜認識に至るまでのさまざまな種類の宇宙論から疎外されている。そしてまた共同体の社会体制として、その階層的権力構造の上部として、それらの“共同体標準宇宙論”を制度化する勢力からも個我は疎外されている。その点に、人類の長年のコミュニケーション不能の中心的患部がある。 我という、物体でもなんでもない、（おそらく）脳機能を中心とする生理現象ではあっても決して普遍的生理現象ではない、この、それぞれにおいて唯一無二、天上天下唯我独尊の、この奇妙奇天烈なもの、鮭の稚魚にも子猫にもあり、私にもあなたにもあって、しかしひとつひとつが非常にクリアに硬質に個絶している、この摩訶不思議なものを、正しく組み込んだ、正しく組み込むことのできる、宇宙論の構築努力とともに、人類史上初めての、コミュニケーション理論の構築が始まる。 そして、疎外とはまさしく１８０度逆方向の、うまい表現がないが“全組み込み”の人類社会の構築が始まる。それは、外に、外に、対象的に、また外にと、あらぬ（非現実的な）宇宙をむさぼる心の(phallus的)ベクトルではなく、“全内向き”の(uterus的)宇宙認識の始まりである。このことは、今の言葉での説明が非常に難しい。 従来、なぜ、宇宙が外宇宙として疎外〜被疎外されてきたのかといえば、それは、（貨幣を頂点とする）メディアと権力の階層性と密接に関係がある構造であると思われる。その階層性は、放射性と言い換えることもできる。階層の頂点にメディアと権力があり、個我はそこから放射状にぶら下がる。宇宙像は、この構造の中で不純に媒介され普遍化される。そうして、我があってもなくても存在する宇宙、というありえない虚像ができあがる。 〔そのような、外的、対象的宇宙像の基盤になっている概念のひとつが、「数」の概念である（参考記事）〕。 この、絶対的放射性〜階層性の構造にあっては、私とあなたの、ヨコヨコ方向の、コミュニケーションは成立しえない。いや、そもそも、疎外され、忘却隠蔽放置されている我の多くは、そのようなヨコ方向性の可能性に目覚めることもない。どこかの、共同体の破れ目においてたまに目覚めえたヨコ方向性は、最初期の生命〜生物がたぶんそうであったように、きわめて短命非力であり、社会的拡充性をもたない。 たまたま目覚めえたヨコ方向性にとっては、ロミオ＆ジュリエットのような終わりがつねにデフォルトの宿命である。 …が、突如、パーソナル（な）コンピュータとそのグローバルなネットワークは、ヨコ方向性の社会的拡充性の《可能性》を持ってしまった…。ただし現時点では、いわゆるパソコンは実態はまだまだ残念ながら、パーソナル（な）コンピュータにはなっていない。圧倒的にそれは、企業が使う小型で安価な現場末端労働者用コンピュータであるにすぎない。 それはまだまだ、人類社会の圧倒的に大きな部分で、共同体性（＋企業と呼ばれる仮想共同体）と、階層状放射状の権力・メディア構造が圧倒的な支配力をヒト個体に対しても抑圧的抑止的隠蔽的忘却的放置的＝『疎外的』に揮っているからだ。そこで、まだまだ、パーソナルなコンピュータもそのグローバルなネットワークも、ロミオとジュリエットたちを長生きさせてくれない。また、彼らを、いや、そのような私たちを、大量に増殖してもくれない。 Linuxの生成史も一種のロミオ＆ジュリエット事件であるけれども、いよいよMicrosoft社は「Linuxは我が社のパテントを百数十件侵している」と言い始めた(0705)。さて、どうなる。政治や司法の連中が相変わらずコンピュータ音痴なら、先行きは暗いかもしれない。
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